姿こそひなびたれ、心は伽羅にて候
地下蔵がもぬけの殻となった数刻前まだ朝日も昇らぬ時分これから父親の身に起こるであろうことをまだ知らない官吏を含めた側近達数名は、他の妓楼からの帰り道であった「ファリョンの娘の行方はまだ掴めないのか?」「……はい、間違いなくファリョンの実弟、トンウンと一緒に居るのは分かっているのですがどうも行方を晦ましたようで」「トンウンか……ちと厄介だな、あの者は腕が立つ」「腕の立つ者を集めますか?」「あゝ、人手は多くて構わん早急に捕まえろ娘はファリョンに似ているからな一頻り遊んでから売り払う」「御意」官吏は舌なめずりをしながら口元を腕で拭った「ずっと目を付けていたのだ彼奴等が居ない今、あの娘を好きに出来るのは俺だけだ」官吏の言葉に、側近達も思わずごくりと唾を飲み込んだこの男の加虐的な趣味嗜好はある程度は理解していた有り余る程の性欲で以って、女人を狂人、廃人へと変える程の残虐行為を繰り返してきた官吏のファリョン...リョンへの執着は知っていたが、まさか、娘にまで目を付けていたとは「流石にそこまで執着なされていたとは思いませんでした」「ふふふっ…俺はな、欲しいものは絶対に手に入れる男なんだそして、手に入れたら自分の手で壊したい何故なら、この先逃げられたり、誰かの手に渡ったりなどしたら不愉快だろう?」そう言ってくつくつと笑う官吏に側近達も感嘆の呻きを挙げざるを得ない清々しい程の自己中心的な考えそこには一片の理性も無い自分の思うままに生きる正に、完全なる外道の所業だだが、側近達にはそれが酷く魅力的に見えた側近は薄っすらと笑みを浮かべる「早急に捕えます」「頼むぞ」「御意」からからと笑いながら歩いていると人通りの少ない道へと差し掛かった薄暗い道に月がぼんやりと光っていたそれが突然、消えた否、消えた様に視えただけだ「な、何も……の」月の前に黒い影が立っていたのだはっ、と気付いた時にはもう遅かったばたっ一人ばたっ、ばたっ、………二人、三人、………一気に側近達が倒れた何が起こったのか官吏の周りには側近達の屍があったその異様な光景にぶるぶると慄える官吏は目の前に立つ影に向かって何とか口を開いた「お、お前………は一体」月に背を向けた影の顔は真っ黒で何も見えないだが、表情も分からぬその影から発せられる殺気に官吏は思わず膝をつく影は抑揚の無い冷たい声音で言った「お前如きに名乗る名は無い」その言葉を聞いた瞬間、官吏は意識を失った申し訳ありません。自動更新するのを忘れておりました。泣↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
「舟がだと?」早朝、駆け込んできた部下に苛つきながらも、その不可解な報告に官吏の父である村の助役は思わず聞き返した「はい 舟は炎上、其処に居た筈の者達も居らず…」「居ない?どういう事だ?」「分かりませんその…………消えたのです……忽然と」「消えた?」昨日、密かにやって来た倭寇の者達は、談議を終えると軽く此処で遊んでから夜半、自分達の舟へと戻って行った筈だなのに、たかが数刻の内に、忽然と姿を消したとそれも舟の炎上と共に一体、何があったのだ?そう問うても分からないと答えるだろうそれはあまりにも不自然で不可思議だったからだ助役が押し黙ったままでいると部下は「それと……旦那様」と、おずおずと伺う様に言うとそっとあるものを差し出した「船着き場に此れが」それを見た瞬間、助役は驚いて目を見開いた「此れは………」「ご存知なのですか?」知らない筈はない元々、文官の出で元との交渉役も担っていた助役だ彼等の存在は「………"チョ…ゴルテ"」「何です?」助役は再び押し黙ると部下を手で「もう良い」と退けた部下は頭を下げると出ていった一人になると助役は拳をぐっと強く握り締めたチョゴルテ…赤月隊王、直属の隠密部隊だ何故奴等がまさか、、、こんな僻地まで嗅ぎ付けたのか?「そんな馬鹿な…」奴等に存在を知られたら最後「生命は………無い」思わず漏れた声は掠れ、唇はかたかたと震えていたすると、外からばたばたと騒々しい足音が近付いてきたばたんと音を立てて戸が開くと助役の従者が足を縺れさせながら転がり込んできた「旦那様!」「………今度はどうした?!」助役は立ち上がると思わず苛立ち紛れに叫んだすると、従者は震えながら甲高い声を上げた「地下蔵が……地下蔵がっ!」「何だ!」「か、、、空っぽです」もう、、、お終いだ助役は真っ青になりながら崩れ落ちた↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
少し経ち、トンウンは徐に顔を上げた「大丈夫か?」「はい」「そうか」ジイルがトンウンを促し家に入る皆が一斉に振り返った「寝たのか?」柱に持たれていたムンチフがトンウンに声を掛ける「はい、やはり気を張っていたようで…」「だろうな ゆっくり寝かせてやれ」「はい」トンウンからメヒを受け取ったジェファンが布団に寝かせユンファンが手の傷の処置をするゆるゆるになったままの布を見て、ユンファンが首を振りながら大きくため息をついた「プジャン(副隊長)、、いい加減、これくらい出来る様になりなよ」「煩いな、早くやれ」「へいへい」二人が手早くメヒの世話をしている間ダルユンはどかっと腰を下ろしたジイルに言った「どうでした?例の妓楼は」「ざっと見たけどやはりこんな小さな村には似つかわしくないくらいの豪勢なものだったよ何処も彼処も豪華絢爛で女子供は勿論、男も着飾って…」「好色の極みってやつですね」「あゝ、本当に」ジイルは大きく頷くとムンチフに向き直った「トンウンの言う通りこの村は倭寇と繋がりを持つ為の拠点となっております倭寇に禁じられた人参を主な取引とし、時には人身売買も行っているようで」「そこまで巣食っていたとは…」トンウンは苦しげに顔を歪めた「それも全て件の官吏親子が己の私欲の為にしていることこの村の民達は、皆、奴等の犠牲になる為に生きているようなものです...糞っ!」トンウンは拳を床に叩き付けた「それとメヒを探している時に件の妓楼の地下で隠し蔵を見付けました其処に取引で得た御禁制のものや武器、兵糧を隠しております」「それは確かか?」「間違いなく…この目で見ました」ムンチフが目を閉じる「それともう一つ密かに舟着き場で探りを入れたところ今宵、例の官吏の父親との談議の為倭寇の舟が停泊するそうです」しんと静まり返った部屋にはメヒの寝息だけが響いていた皆がムンチフを見ている「糸を張り過ぎた蜘蛛は新たな糸を張る前に取り除かねばならない」「イェ」ムンチフは閉じていた瞳を開いた「直ぐに首尾につけ」「御意」その夜舟着き場にて突如、倭寇の舟が炎上した舟に残っていた者達は忽然と姿を消し、積み荷は跡形もなく消えていたそしてその場には紅き月が描かれた帆が掲げられていた↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
暫くすると泣き疲れたのかメヒはトンウンの腕の中で眠ってしまったトンウンはメヒを抱き上げるとジイルに向かって頭を下げた「副隊長、ありがとうございますメヒを止めて下さって…」「否、構わぬ然し … 本当に強い子だな単身、敵陣に乗り込むなど正気の沙汰じゃない一体、誰に似たのだ?」「多分、姉に …………… 似たのだと思います」「……… そうか」ジイルはトンウンの腕の中にいるメヒを覗き込むと涙に濡れたメヒの頬を指でそっと拭ったジイルは暫くの間、メヒの顔を眺めていたがすっとトンウンに視線を移した「トンウンよ」「はい」「私と二人の時はそういう謙った態度を取るな」「な...何を唐突に」トンウンの目が一瞬、微かに揺らぐジイルはじっと黙ったままトンウンを見ている「胸は貸せんがな ……… 肩なら貸せるぞ」その目に宿る温かさに気付いた時、トンウンはふっ、と息を吐いた「すまない…」そう小さく呟くとトンウンはジイルの肩に顔を埋めた「皆が来てくれなかったら 耐えられなかった」「いいって……気にするな」宵闇の静寂の中に虫の鳴き声が響く「よく……耐えたな」ジイルの衣がゆっくりと湿っていく「本当は………メヒよりも、俺の方が…………彼奴を殺………して………やりたかった」「やはりよく似てるお前達は... ... ... ... 泣き方も一緒だな」トンウンの何かを堪える小さなうめき声が静寂の中に消えていった↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
五尺八寸(約175cm)程の体躯が小さく縮こまっている自分の手を握り、布を巻き付けるだけなのにああでもない、こうでもない、と眉を寄せてる姿は先程までの知的な様子からは想像もつかない痩身に似合わぬ端正な顔を、メヒはまじまじと見つめたすっきりと通った鼻筋に細い顎きめ細やかな肌長い睫毛が切れ長の瞳をいっそう際立たせているメヒはふと有る事に気付いたこの雰囲気…「ジイルさんに聞きたい事があるの」「何だい?」「ジイルさんって………女のひとなの?」メヒの問い掛けに、ジイルは一瞬、驚いた様に目を見開くと直ぐににっこりと笑顔になった「よく気付いたね」「うんだって、男のひとの雰囲気じゃないんだもん」初めて見た時、周りの人達に上手く溶け込んでいたのかそんな雰囲気は一切無かっただけど、こうして対面し、間近で見ると男のひととは全く違う事に気付いたのだ「ふふ、やはり君は違うねトンウンに鍛えられた事だけある」「え、あの…鍛えられたっていっても大した事は教わってないし、ジイルさんがオンニだって気付いたのも偶然っていうか…」「それでもこの姿で気付かれるって滅多にないことなんだよ」実際、ジイルの姿形だけ見たら男と言われる体躯そのものだ痩身ながら、衣で隠れてはいるが鍛え上げられた筋肉は隠せない元々色素が薄いからか、肌も白く目の色も髪も茶色が掛かっているだからか、体毛が薄くその為、髭も生えないのだろうとそんな風に勝手に解釈されているのだ「小さい頃にね色々弄くられちゃったから、この身体は女人の躰を保てなくなってしまったんだだから、私が女人だって知ってるのも今居る面子だけなのさ」だからね、と唇に指をあてると、「皆には内緒だよ」そう言ってジイルは小さく笑ったずっとメヒの沈んだままだった心がジイルのお陰で少しだけ浮上する時折、傷んだままの手を擦りながらジイルと他愛もない話をしているとあっという間に家のそばまで来ていた「メヒ!」自分を呼ぶ鋭い声色に、メヒは肩をびくつかせて声のする方を見た簡素な造りの門扉の前にトンウンが立っていたその顔が酷く怒っているのが分かるメヒは思わずジイルの背に隠れた足早に近付いてきたトンウンに、メヒは俯いたまま更にジイルの背にしがみついたトンウンに黙って出てきたこと心配かけてしまったことは分かっているトンウンに対し申し訳ない気持ちでメヒはトンウンの顔が見れなかった「メヒ!」「………………」何も言えずに黙っているとトンウンがぽつりと呟いた「遅かった…じゃないか」「え...?」「………姉さん達が待ってるぞ」メヒは、はっと顔を上げトンウンを見た眉を下げ心配げな、苦しそうな顔を必死に怒った表情で取り繕ったそんな何とも言えない顔でトンウンはメヒを見ていたメヒの激しい痛みが突き刺さる込み上げる想いが涙となって頬を伝った「ごめん……ごめんなさい、叔父さん」...... 叔父さんにこんな顔させちゃ駄目だ私は、、、生きなきゃメヒは勢いよくトンウンにしがみつくとその胸に顔を埋め泣いた↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
真っ暗な夜道に白月の光が微かに灯るその月を背にふたりは互いに黙ったまま静かに歩いていた「どうして…」「ん…?」横を歩くジイルがメヒを見る「どうして私が彼処に行くって分かったの?」「ふっ、分かるよ君だったらきっと、そうするだろうって分かっていたからね」メヒは立ち止まってジイルを見た「私…彼奴を殺したかった「お父さんとお母さんをあんな惨たらしく殺した奴が、この世でのうのうと生きてるなんてふざけてるだから私...たとえ自分が死ぬことになっても彼奴を...、少しでも苦しめたかった」目頭が熱くなり涙が込み上げるのをメヒは拳を握り締め、口を真一文字に噤んで耐えたほんの少しでもいい…、ふたりの痛みを彼奴に与えたかったのに、それは叶わなかったぎゅっと握り締めた拳が痛い何故だろう手を開いて見ると、掌が真っ赤に腫れ、所々鬱血していた掌を開いたままメヒはジイルを見たジイルは苦笑いを浮かべてその小さな手を攫むと、そっとメヒの前に屈んだ「あれだけ握り締めていたんだ痛くないわけ無いだろう?」掌をそっと撫でると懐から取り出した布を手に巻いた「君の言う事は分かるよだけどね、死んだら終わりだもし彼奴が死ななかったら?その後の奴の行く末を君はその目に見ることは出来ないんだそんなの、後悔するだろう?」メヒはこくりと頷く「だから、その目で奴が苦しむのを見届けるまでは死んでは駄目だ分かったかい?」「分かった…………ねぇ、ジイルさん巻くの、下手だね」メヒが掌をジイルに見せる手に巻いた筈の布がだるんだるんに寄れていた途端にさっきまでのジイルの真面目な顔が一気に真っ赤に染まる「あゝ~ごめん!どうもね、こういう事は苦手なんだっ」ごめんなぁ~と心底申し訳無さそうに眉を寄せるジイルを見て、メヒは漸く笑顔を見せた↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
この村にある唯一、夜に華やぐ処、それが妓楼だ一際荘厳できらびやかな其処は、官吏の父が村人から吸い取った税で建てたものだ妓楼にはちゃんと名はあるだが、村の人間はその名を口にする事はない口にするだけで、自らの口が腐るのではないかと思う程の名、つまり、官吏の名が付いた妓楼だからだそして村の人間は決して其処に入る事はないいや、入ろうとしたとしても直ぐに門前払いを食らうだろう其処に入るのが許されるのは外から来た金のある客、両班や商人、そして国の役人達くらいだだから、もし村の人間が入れるとしたらそれは売られた時、官吏やその父親の逆鱗に触れ、見せしめとして死ぬまで働かされる時、だけだろうそんな汚い強欲と村人の心血が流れるこの妓楼で、今宵も伽耶琴の鳴る音が村中に響き、男共や女人の笑い声、嘲笑、卑猥な声が夜の闇を乱していくそんな妓楼の片隅灯りの届かぬ真っ暗闇の中に小さな招かれざる客が紛れていた背中に回された手には子母刀が握られている「糞野郎…」一際大きく下品な言葉や下卑た笑い声を響かせている部屋を見つめながら、メヒは怒りのまま吐き出した幼さを残した美貌は両親の死によって窶れ、見る影もない痩せた身体に生気はなく、目は闇夜よりも真っ黒だ今、メヒを突き動かすのは官吏への憎悪のみだった「殺す………殺してやるっ」握り締めた掌は真っ赤に鬱血して痛いはずなのにメヒは何も感じなかったその時、官吏達が部屋から出て来た両腕に妓生を侍らせており、時折胸元に手を突っ込んではげらげらと笑い声を上げているその気持ちの悪い笑い声をこれ以上聞くのは耐えられないメヒは官吏達に近付こうと一歩足を踏み出したその時、誰かの手がメヒの肩を掴んだ………っ…見付かったさぁっと血の気が引き、冷や汗が一気に流れ落ちる手にした子母刀を更に強く握り締めた……万事休すかメヒは恐る恐る振り返ると、大きく目を見開いた其処には驚くべきひとがいた痩身の身体が闇夜に浮かび上がる「…………あ、あ、……ジイル、さん…」真っ黒の衣に紅い朏(みかづき)の紋様が入った額当てをしたジイルが口に人差し指を当て小さく笑った「私の名を憶えていたんだね良かったさぁ、行こうか」「待って!私………」……行かなきゃっメヒが慌てて官吏達を追おう視線を向けると、ちょうど角を曲がるところだっただがジイルはメヒの肩を掴んだままだそれほどきつく掴まれているわけではないのにメヒの身体は其処からびくとも動けない「今の君に彼奴等を倒せる力があるのかい?」……それは死ぬ覚悟だった皆は駄目でもせめて官吏だけにでも一太刀浴びせられればと思っていたジイルはメヒの心情を分かっているのかそれは駄目だ、とでも言うように首を振った「大丈夫、此処で止めても彼奴は逃げないよさぁ、帰ろうトンウンが待ってるよ」強張った身体の力が急速に抜けていくメヒは力無く頷いた↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
両親が死んでから、幾日が過ぎた家の周辺では官吏の部下達らしい質の良くないごろつき共がうろうろしていた為、メヒは家に戻る事も出来ずにずっとトンウンの家に居たといっても、当のメヒ本人はそんな状況等知る由もなかった「少し休め、寝た方がいい」メヒの下目蓋に刻まれた"くま"を伸ばすように撫でながら、トンウンはメヒに言い聞かせるが、メヒは力無く首を振ったメヒはずっと眠れていなかった目を閉じれば、目に焼き付いたままの両親の死に体が浮かび上がる想像の中での官吏は、無抵抗のふたりを笑いながら凌辱の限りを尽くしていく断末魔の叫び声人間とは思えぬ声官吏の厭な笑い声が頭に響くメヒ…メヒ………メヒ!!生命の灯火が消えるその時、掠れた声で自分を呼ぶ両親の声が聞こえたような気がしてメヒは泣きながら目を開けた目を閉じる度に見る悪夢目を開ける度に訪れる後悔と懺悔ふたりの最期の姿さえも思い出せないなのに、官吏への憎しみだけがメヒの心をどんどん蝕んでいたお父さんお母さんごめんなさいそしてある日「メヒ?………メヒ?」トンウンがメヒが寝ている筈の部屋を覗くがもぬけの殻だった「出掛けたのか?それにしても…」綺麗に片付けられた部屋でトンウンが考え込んでいると、「トンウン」ムン・チフが入って来た「隊長!」トンウンは頭を下げる「メヒがおりません」トンウンの言葉に、ムン・チフは頷いた「………大丈夫だ、彼奴が付いている」↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
どうしてこんな事に……何故...?何故......?何故.......!?父は?母は?あの時、どんな顔をしてたっけ?笑っていたのだろうか?ふたりの顔が...............何も思い出せないメヒはトンウンの家に居たムンチフとやって来た男と共に我が家へと向かった其処は血の海だった見た事もない惨状、そして変わり果てた両親の姿その両親の遺体を前に泣いて泣いて泣いて、姿形も変わり、肉塊と化したその亡骸に縋りついたまま失神したそして今、トンウンの家で放心状態で柱に寄り掛かったまま、黙って焦点の定まらない目を天井へと向けていたそばには血だらけの衣のトンウンが膝を正して座っており、その目前にはメヒの両親の亡骸が、筵を被せて寝かされていた血の匂いに引き寄せられ何処からとも無く蝿が湧くその度にトンウンは集る蝿を真っ二つにたたき落としているトンウンもまたうわの空だった家にはムンチフと太った男ダルユンの他に数人がいた「トンウン、しっかりしろ」トンウンに寄り添う同じ顔の男達ジェファンとユンファンは精悍な顔を苦しそうに歪めながらもトンウンの肩に手を置き寄り添っていた「やはり、此処一体は例の官吏の一族が支配しているようです」痩身の男がムン・チフを見る眉一つ動かさず黙ったまま続けろ、と視線を投げる「小さな村なので国の目が届かないのでしょう私利私欲の限りを尽くしています」「えぇ、その通りです、ジイル副隊長」トンウンはジイルに視線を向けたその目は怒りで震えている「彼奴等のせいで皆が苦しんでいます特に官吏、彼奴は親の力を使ってやりたい放題だあるものは道端で邪魔だからと切り捨てられ、あるものは顔が気に喰わないとひたすら殴られ、またあるものは、魔羅が昂ってるからというだけで無理やり突っ込まれ狂死しました此処で死んだ奴は皆、彼奴のその日の気分で殺されたものばかりです」「何て奴…」ダルユンが吐き捨てる様に呟く「あぁ、彼奴は人間じゃない」トンウンは込み上げる不快感を何とか呑み込んだ落ち着け、冷静になれと頭の中でもうひとりの自分が叱咤するその葛藤と必死で戦っていた「叔父さん.......私、何も知らなかった…」メヒの頭の中もまたいろんな感情がぐるぐると駆け巡っていたトンウンの話も、トンウンの友だというこの人達の話も、メヒにとっては寝耳に水だったトンウンがメヒのそばに近付くとじっと視線を合わせた「メヒや...義兄さんも姉さんも言わなかったんだよ彼奴は姉さんだけじゃない、メヒ、お前にも目を付けていた俺がお前に多節鞭を教えたのもその為だ」成る程…そういう事だったのかムン・チフはほんの一瞬メヒの鞭に目を向けた子供に持たすには些か可怪しいと思っていたが合点がいくこの子を守る為か「だけど、こんな事って… じゃあ、何?父さんは顔が気に入らないからって切り刻まれたの?母さんは?この村一、綺麗だったから?そんなのって酷い!あんまりよ」メヒの心に熱いものが込み上げ、目頭が熱くなる想いを吐き出した瞬間、涙が溢れた後から後から溢れた涙は頬を濡らし床へと落ちていく「何であんな奴が…、どうして平気な顔してあんな酷い事が出来るの?我が物顔で生きているのよ!!!神様は何故、あんな奴を生かしておくのよ!答えてよ!答えてよ~!!!」メヒの言葉は悲痛な叫び声へと変わっていった↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
「トンウン………そうか......」君がメヒか…「アジョシ……、ヌグセヨ(誰ですか)?」綺麗な瞳は澄んだ色をしていたしかしその色が、深く暗く濁る事をこの時はまだ知らないメヒは、アジョシ…では無く、先程、赤月隊のムン・チフと名乗ったこのひとを家へと案内するところだったそもそも、自分は今日は雨月庵にチンダルレを見に行く筈だった幼馴染のギベクが迎えに来てくれて、いざ行こうっとなった時、ある女の子が通り掛かり、親しげにギベクに声を掛けたギベクは「ちょっといい…?」とメヒに断りを入れると、女の子と少し離れたところで話し始めた時折、口論する声が聞こえるが、どんな話しをしているのかまでは聞こえないひとり置き去りにされたメヒは、そばの木陰に佇みながら空を見上げたいつの間にか雨は止んでいた―良かった、止んで此れならゆっくり見られるわ暫くしてふたりは戻って来たギベクは浮かない顔をしたまま「ごめん、メヒチンダルレは今度でいいか?」ぱんっと顔の前で手を合わせバツが悪そうに顔を顰める両の手から此方を伺い見る目が怯えたような、嫌な余所余所しさが感じられ、そんな顔をされたらメヒは曖昧な顔で頷くしかない隣では女の子が何処か誇らしげで嬉しそうに自分を見ている―あぁ、成る程ね私は噛ませ犬だったのか…一歩下がって寄り添うように立つ女の子彼女を気にしながらも謝るギベクそんなふたりを目の当たりにし、少しだけ抱いていた淡い恋心はつゆと消えたふたりと別れ、ひとりっきりとなり、メヒは釣り場へとやって来た心を落ち着かせたいなら釣りをするといい水面を見つめ、それに身も心も委ねれば自ずと心も凪ぐであろうよ叔父から勧められ、釣りなど興味の欠片も無かったが、今ではメヒにとって無くてはならないものだだが、釣りと言っておいて釣り竿ではなく鞭を渡してきたのは如何と思うがそんな事もあり、魚を捕っていたところにムン・チフが現れたメヒにとって、大きくて威圧感もあるこのひとが最初こそ驚きはしたものの、決して嫌では無い事に気付いたちらりとムンチフを見上げると、真っ直ぐ前を見ていたその目がちらりと視線を向けてきたその目が微かに微笑んでいるこんなにも大きいひとなのに、大きな感じがしない何処か穏やかで優しい雰囲気に、全然似てないけど、お父さんと似てる、と思ったそんな事を考えながら、両手を口に当てくすくすと小さく笑っていると道の向こうからひとがやってきた何処も彼処も丸い恐ろしく太った小男だ男はふたりの目の前にやって来ると、ムンチフに向かって頭を下げた「隊長!」「どうした?」「それが…」男はほんの一瞬メヒを見るそのただ事でない様子はメヒにも伝わるメヒはムン・チフを見たムン・チフは眉を寄せ、自分達が行く筈の道を黙って見ていた↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
「何をしている?」「………魚釣り友だちと……遊べなくなったから」少女はムン・チフを見る事もなくそう言ったその目はずっと水面を見つめている魚釣りというが、釣り竿等持っておらず、手にあるのは少女が持つには些か不似合いな"鞭"だだが、そばには魚籠が置いてあり、ちらりと中を見ると何匹かの魚が入っていたもしや…それで捕っているのか?、と少女の視線を辿る日の光が水面に反射してきらきらと煌めいているムン・チフの目に、時折、魚が浮上し、潜っていくのが見えたすると、そばに立つ少女から気が発せられるそれは内功であったなんと…驚いて少女を見ると、少女が手にしていた鞭が宙を舞う水面に浮かんでいた影に鞭が絡みつくと、それを一気に引き寄せたびちゃっ、びちびちっ大人の掌程の魚が勢いよく跳ね上がる「ほぉ…」この大きさの魚を、よくぞ捕えたものだ泳いでいる、しかも何処へ動くか予測出来ないものをその目で捕らえ、鞭という水面ではかなりの力を要せねば使いこなせぬものを易易と使いこなす生まれ持つ動体視力と、いち早く獲物捕らえる目の良さだが、それだけではない此処まで行き着くには相当な修練が必要だそれを、こんな名も知れぬ村の幼い少女が出来る技ではない「そなた…何処でその技を身につけた?」「何処でって、此処で 叔父さんに教わったの」少女は、地面でもがく魚を魚籠に放り投げると、砂で汚れた手を水で雪ぐ「叔父…….そなたの叔父の名前を聞いても良いか?」その言葉に少女は漸くムンチフの方へ視線を向け、目を大きく見開いた不躾な事を口にするこの村のものじゃない男しかもあまりにも威圧感のある風貌に少女は怪訝な顔をして首を傾げるだが、その男は頼む、と頭下げた為、渋々な顔をして頷いた「………トンウン」↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
その頃、船着き場に数名の余所者が降り立った質素な色の外套を羽織ったその集団は笠を被っているもの外套を目深に被るもの各々、皆一様ではあるが、顔を極力隠してはいるものの、醸し出す雰囲気がどことなく只者ではない彼等は、ゆっくりと辺りを見渡しながら口々に話し始めた「長閑で良い処ですね」「だなぁ」「こんなところで余生を過ごしたいもんだ」「余生って…あんた、まだそんな事言う歳でもないでしょ」「そうだがなぁ…」「失礼、皆様 私、一寸休みたいのですが…」「「却下」」「はぁ……駄目ですか実は長旅で眠れなかったのですよあの船、凄い揺れるし、寝床は狭いし、変な爺さんは煩いし、船の上は汚いし…」「おい、少し黙ってられないのか」「うぅ………だって、あの船が」「黙れ」「…」口々に言い合っているが、常人の目や耳には言い合いをしている様には見えず、声も微かに吐息が聞こえる程度だ並の人間ではない事は分かる「それにしても、こんな小さな村にも悪さをする様な輩がいるのかね?」「一見すると穏やかだが… そういう処程、碌な状況ではない」「成る程ね」そんな喧騒の中で、唯一何も声を発しないふたりその集団の先頭を歩く痩身の男がもうひとりの男へ目を向けた大きな体躯に威厳のある風貌特に異質な纏ったこの男に声を掛けた「隊長、如何しますか?トンウンの処へ行かれますか?」「………そうだな」"隊長"と呼ばれた男は、聞いてるか聞いていないか分からない目をしてすっと浅瀬の方へと目をやった「……先に行っててくれ」「はい」皆が頭を下げると、静かに町の中へと入っていった後にひとり残った男赤月隊ムン・チフはゆっくりと浅瀬の方へと歩いて行く時折、心地良い風が吹きその度にさらさらと波が揺れる音と木々の囀る音が耳に届くそんな穏やかな音色を聞きながら、ムン・チフは件の浅瀬へと辿り着いた其処には鞭を持ったまま、水面の先を見つめ静かに佇む少女がいた「何をしている?」ムン・チフは少女に向かって問い掛けた↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
3.11 これからも、できること。| Yahoo! JAPAN / LINE3月11日に、ヤフーやLINEで「3.11」と検索してみませんか。検索された方おひとりにつき10円を、東日本大震災および能登半島地震の復興支援や防災をはじめとするより良い未来づくりの活動に寄付いたします。www.search311.jp3.11寄付は、チカラになる。 - Yahoo!ネット募金いまも支援を必要とする人のために、より良い社会づくりのために、寄付を受け付けています。donation.yahoo.co.jp風化させるわけにはいかないあの日を思い出すことは辛く苦しいですですが、忘れることは出来ないのですだからこそ、自分に出来ることをこれからもしていくしかないのです令和6年能登半島地震緊急支援募金 - Yahoo!ネット募金令和6年能登半島地震緊急支援募金。被災地域支援のための寄付へのご協力をお願いいたします。donation.yahoo.co.jpありがとうございます
ふらふらと転げ落ちるように家から出てくると、目の前で官吏とその部下達が待ち構えていたにやにやと下卑た笑いがふたりに暗い影を落とす特にリョンを舐めるように見る官吏の目がいっそう激しくどん底へと誘い始めていくミョンジュンとリョンは彼等の目前で座り込むと、頭を地面に擦り付けた「官吏様…お願い…お願いします!これ以上はもう無理なのでございます税は日々増える一方、我等も、我等の仲間も税が払えず、此れでは死ぬしか方法がありませぬ」「そんなことは知らぬ税を納められねば死ぬしかなかろうが」「しかし…」食い下がるミョンジュンに、リョンは隣で頭を下げ続けるしか方法がなかっただが、そんなリョンをずっと官吏の目が蛇のように舐めまわしていたが、ふと、思い出したと言わんばかりの顔をして官吏はミョンジュンのそばにしゃがみこんだ「でも、まぁ考えないことはない」官吏の言葉にミョンジュンは、顔を上げて官吏を見たその顔は決して善意のそれでは無いことに気付き戦慄した― 此れ以上、何を望む?冷や汗を流しながら、官吏を見ていると、官吏はリョンの方へくいっと顎をつき出すとにやりと笑った「お前の妻を差し出せ!それで特別に免除してやろう」部下達も一斉に嘲笑し出す中にははやし出すものもいるミョンジュンは怒りで思わず、前のめりになるが、すんでのところでついと腕を引かれたミョンジュンがリョンを見ると、リョンは頭を下げながら、ミョンジュンの袖を掴んで離さなかったその手はぶるぶるとおこりのように震えていた※次回から4話分が残/虐含む生々しい描写が続くため限定記事となります。読まれる方でそういった内容が苦手な方は4話分お待ちくださいませ。↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
メヒは知らなかったが、その日、メヒの父ミョンジュンは金策に喘いでいたのだという年々増え続ける税の徴収それは、メヒ達、タン家も例外ではなかった民の暮らしは常に逼迫していたなのに、徴税官達は税を払えない民に対し、傍若無人の限りを尽くしたあるものは新調したという剣の切れ味の道具にされたり、美しい妻を慰みものにされたり、そしてそれはその子供達にも向けられたこともあったのだ聞くにも堪えない愚弄の数々だが、民はそんなことがあっても生きていくためには息を潜め、従うしかなかった結果、無惨に殺されることになってもその日、メヒを送り出した母リョンは、入れ違いに帰ってきた父ミョンジュンを出迎えたため息をついて力なく首を振るミョンジュンにリョンはそっと肩に手を触れた「すまない…こんな暮らしをさせてしまって」そう言って肩を震わせるミョンジュンをリョンは黙って抱き締めた「ミョンジュン!」家の外から聞くのも耐え難い件の租税官の声が聞こえてきた一気に顔が強ばるミョンジュンとリョンその時リョンは、心にある決意を秘めていた↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。
冬の寒さも治まり、春の陽射しも眩しく感じる頃、未だチンダルレは美しさも色褪せず華麗に咲き誇る「相変わらず綺麗な花…」メヒが小さく洩らした言葉に、さりげなく抱き寄せられる温かな腕「そうだな」微かな相槌と、ヨンの優しさに哀しみが少しだけ軽くなる今日はメヒの父母の命日だったその日は朝からどんよりとした雲が空を覆い、空を見上げていたメヒは、はぁ…とため息をついた「何、そんなため息ついてるの?」「だって、今日は雨月庵にチンダルレを見に行くって約束して…」「あぁ、ギベクと?」「そう。でも…」「雨降っても見れるじゃない」「だって…」「ふふふ、折角なら可愛く見せたい…から?」「ちょっ…お母さん!」焦るメヒを他所に母はからからと笑ったギベクは幼馴染みで、小さな頃からいつも一緒だ優しい笑顔の男の子で、いつもメヒを癒してくれるギベクに淡い恋心を抱いていた「これを持っていきなさい雨が降っても庵で食べれるでしょ?」そう言って母はメヒの手に握り飯を持たす「うん!ありがとう、お母さん!」嬉しそうに笑うメヒに母はにっこりと笑った「メヒ~!」外からギベクの声がしたギベクの声にメヒはどきどきしながら、何度も身なりを整えると母に向き直る「行ってきます、お母さん!!」「ふふ、気をつけるのよ」「はーい」それがメヒが見た母の最後の姿だった↓励みになります。ポチっと一押し宜しくお願い致します。