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ポン太が待ちに待った春になった。

すっかりその気のポン太に対してメス猫たちの反応があまり良くない。

どうやら飼い猫というものは「避妊手術」とかいう代物を施されているらしい。

そのせいかメス猫たちはポン太にスリスリはしてくるくせに、ポン太がその気で迫っても何のこと?と言った感じなのだ。

流石にポン太は我慢が出来なくなって、みこちゃんに乗っかってしまった。

みこちゃんはびっくりしたようだけど、そんなに嫌がる様子もなく、ポン太は魔法使いを卒業したのであった。

みこちゃんもそんなに辛い時間が長いわけではないので、大好きなポン太がしたいなら良いわよって感じだった。

なんせ猫は早いのだ・・・3秒もあれば済むことなのである。

そして・・・数年がすぎるとその地域はポン太の縄張りとしてメス猫は全てポン太の思うがままの状態になった。

残念なことにその全てが避妊手術とかいう代物を受けていて、ポン太の子供は生まれることは無かった。

またメス猫全部を独り占めにしても他の雄猫たちから戦いを挑まれることもなかった。

雄猫たちも去勢手術とかいう代物を受けていて、なんとまあ男らしさが無いも等しいのだ。

そんな感じで平和な年月が過ぎていった。

ポン太も放浪癖が無くなりどうやらここが自分の終の棲家だと思い始めていた頃に、

集会所の近くの家がたくさん取り壊され始めて、

そのうち集会所の正面に工事現場出来てしまった。

集会所は職人たちの出入り口となって、他の飼い猫たちは怖がって近寄って来なくなってしまった。

ポン太はそこが住処であったので仕方なく土管生活を続けていたが、朝から夕方まで続く騒音で完全に寝不足になってしまっていた。

なんせ猫は16時間睡眠が基本なのだ。

そんなある日、朝から職人が大声で工事の指示をだしたり、資材が運び込まれたりといつもどおり煩くて眠れやしないとポン太は土管の上でボーッとしていた。

するとソラにあの「ハロー」が現れていた。

ポン太の土管は既に立ち始めたビルの影になっていたために、そこからではよく見えなかった。

ポン太はテクテクと現場に足を踏み入れて、中央の広い所で「ハロー」を見上げた。

月日が過ぎて忘れかけていたシズ婆を思い出し、ポン太は涙が溢れそうになった。

「お~い。だれかそのポン太どうにかしろや!」

棟梁の杉さんが怒鳴っていた。

ポン太がちょこんと座って「ハロー」を見上げている所は、現場の動線のど真ん中だったのだ。

「あ、は~い。棟梁。お~い。だれか・・・おい!ケン坊!ちょっとその野良をどかしてくれ!」

ケン坊と呼ばれた職人見習いは持ち場の建材置き場から走ってやって来る。

「おい、にゃんこ、ここは危ないから、あっち行こうな。」

ポン太を抱きかかえるケン坊にポン太は抗議の一声を出して抵抗を試みるが流石に人間には敵わない。

と、その時、現場に驚くほどの轟音が響き渡った。

作業員全員が同じ方向を振り向いた。

轟音の原因となった鉄骨が上のクレーンから落下して折り重なっていた。

真下に居たら命は無かったであろう。

そしてその場所は、ついさっきまでケン坊が居た場所であった。

棟梁始め、皆が集まってくる。

「おい!誰かけが人はいないか?全員大丈夫か?」

「ああ・・・はい、全員大丈夫なようです。」

二番手あたりの職人が棟梁に答える。

「おい!彼処にいたケン坊はどうしたんだ!」

棟梁は少し焦り気味に職人を問い詰める。

「あ・・・それが・・・棟梁が言った野良をどかしに・・・ほら、彼処に・・・・。」

ポン太を抱きかかえるケン坊に全員の視線が集中した。

「おお・・・無事で良かった・・・しかし・・・あの時にポン太があそこに居なかったら・・・・。

・・・・ケン坊!そのポン太はお前の命の恩人だぞ!」

棟梁がケン坊に言う。

「おお・・・そうだ、そうだ・・・・。」

「しかし・・・どうして今日に限ってその野良はこんな所に出てきたんだ?」

「ああ・・・なんか・・・ず~っと上を見上げていたな・・・そう言えば・・・。」

「おいおい!まさか・・・鉄骨の落下を予知していたとかかよ!」

「え~っ?まさかそんな・・・いや・・・しかし・・・」

口々に色々な言葉が交わされる。

その時棟梁が一言大きな声で言い始めた。

「おいおい!ポン太は現場の救いの神だ。事故が起きたら現場はストップ、もしケン坊が死んだりしていたら俺たちは全員クビだったかも知れん。」

周りの職人たちも「そうだな」とか「オー!」とか声にならない声が交わされる。

「ケン坊、ポン太を・・・ああ・・・あそこの台の上に座布団でも敷いて座らせてやれ。それと何かうまいもんでも食わせてやるんだ。今日からポン太はうちの現場監督様だ。良いな!」

「お~~~!」

歓声があがり拍手がわく。

仕事場の机の近くにある踏み台の上に座布団が敷かれ、ポン太はそこに座らされた。

寄ってくる人々はポン太が好きそうな食い物を目の前に差し出してくる。

ポン太は何がなんだか分からずにいたが、どうやら食い物にありつけたのは間違い無さそうだった。

ソラを見上げるとシズ婆が「ハロー」の中で笑っていた。

ポン太は土管生活から、その現場職人たちの住まいへと生活の場が変わった。

毎日現場に連れて行かれるのには往生するが、美味しい食べ物と可愛がってくれる荒くれ者達に囲まれポン太には再び家族が出来た。

「なあ、棟梁はどうしてあのにゃんこにポン太って名前つけたんだ?」

「ああ、それな。棟梁は昔、拾ってきた子猫を可愛がっていたんだが、ある日山の中の川温泉でその猫をたらいに乗せたまま居眠りしちゃったらしいんだ。」

「ふ~ん・・・それで?」

「で、その居眠りの最中にそのたらいが川に流されて・・・・・。」

「アイチャ~・・・。そりゃ、棟梁・・・・。」

「ああ・・・しばらくは探し回ったけど、結局見つけられなかったみたいでね。」

「その猫の名前がポン太って言うのか?」

「ああ・・・。それ以来、棟梁にかかると猫はみんなポン太だよ。ふふふ・・・。」

脇でそういう話をしているとも思わず棟梁はポン太を抱きかかえて「お~よしよし」とご満悦で酒を呑んでいた。

ポン太もシズ婆と同じように「お~よしよし」をしてくれる棟梁に抱かれて眠るのは幸せだった。



「お~い!現場監督!・・・ポン太ぁ~。仕事に行くぞー。」

棟梁がポン太を呼んでいる。

「にゃあ~」

ポン太はテクテクと棟梁の足元へ歩いていく。

ふと、ポン太がソラを見上げると、今日もソラには「ハロー」が出ていた。


オシマイ

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