その夜は待ち合わせのタイミングが電車の乗り継ぎで前後してしまった。

『交差点の明治屋のベンチで待ってるね』

『まだテニスコート前だから坂下るまで時間かかるよ、先にお店入ってあったまってて』

『うーうん、待ってる。二人で観れる月は角度的に今しかないの』

交差点に着くとその子は僕に気付いてベンチから立ち上がった。
月は僕の背中側に上がっていてそれを指差すように腕を伸ばし落ち着きなくピョンピョンしている。
赤信号を挟んで見るその姿は恥ずかしくもあり愛おしくもあった。

『歩きたい』

月はスーパームーンを過ぎ、右肩が欠けてぼやけていた。

『バックしながら?歩行者のご迷惑になりますよ』

『5分だけ遠回り。公園の入り口まで』

二人だけの非日常をイベント単位でなくて刹那で切り取って提示してくれるのがとても嬉しい。
言葉拙くその事を伝えると

『それはリフがやってる。鳥の名前教えてくれるし、木の名前も。四つ葉のクローバーは日陰に多いし、猫にほじくられた何かの球根を埋めなおしてくれた。車のゲームも上手い。最後の蕎麦は箸を立てれば摘めるし、ゆっくり360度回る展望台で携帯のパノラマ撮影すると夕日がキレイに撮れることもその時その時に教えてくれた』

よくもスラスラ出てくると感心したが、何か興味というか共感するものの方向性が同じになってるんだなと思って嬉しくなった。

でも、飲みの中間で黒蜜きな粉バニラアイスを挟んでくるのはなかなか共感し難いw